自治基本条例の必要性について

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条例説明会
○西尾レジメ
爾俸爾禄
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2005.07.09.山梨県自治会館 13時30分〜15時
国際基督教大学大学院教授 西尾 勝

はじめに:自治基本条例とは何か

西尾勝教授講演

 自治基本条例制定運動の出発点は北海道ニセコ町 (2000年制定)
 岐阜県多治見市、東京都杉並区、東京都日野市など。
 都道府県レベルにも、北海道など。

 名称は、まちづくり基本条例、自治基本条例、住民参加基本条例など多様。

 要は、まちづくりの基本構想・基本計画や諸々の条例の上位に位置しこれらに指針を与える、「まちの憲法」を制定しようとする運動。

 国レベルの憲法と法律の関係と類似の関係。ただし、現在の日本国憲法や地方自治法には、自治体が独自の憲法を制定する権限を与えていない。自治体が制定することが許されている法規は条例と規則だけである。そこで、この「まちの憲法」の名称は条例とせざるを得ないのであるが、これを一般の条例と区別するために、基本条例と名づけているのである。

 従来も、地方議会が制定したものに、条例とは名づけられなかったものとして、都市憲章や市民憲章、非核平和都市宣言等々がある。

 ただし、都市憲章の多くは「まちづくりの基本方針」を述べたもの、市民憲章の多くは市民が日常守るべき公衆道徳や生活規範を定めたもの。いずれにしろ条例に指針を与えるような性質のものではなかった。裏返して言えば、都市憲章や市民憲章に違反した条例が制定される余地はほとんどなかった。その意味で、都市憲章や市民憲章の多くは「まちの憲法」ではなかった。

 これに対して、自治基本条例は、「まちづくりの基本方針」を謳いあげるだけでなく、この「まちづくり」を進めていくにあたって、市民は何をすべきなのか、市議会はどのように行動すべきなのか、市長の果たすべき役割とは何か、職員機構の責務は何かといった諸点についての原理原則を定めようとするものである。そこで、この基本条例はその他の条例の上位に立つ関係のものになるとともに、気を付けていないと、この基本条例に抵触する、この基本条例に違反する条例が制定されてしまう可能性が出てくる。そこで、この基本条例の最高規範性を明確にしておく必要が生じる。

 次には、自治基本条例の制定は何故に必要なのかを、3点に整理して説明する。

I 住民自治(地域民主主義、自治体デモクラシー)を広げ深めるためにまちづくりの主人公は、そのまちに暮らす人々

 まちづくりの古典的な形態は、人々が一堂に会して協議し、まちづくりに必要な共同作業には人々がみずから労役を提供してこれに当たる形態。

 村寄合と賦役現品:茅茸・藁葺きの屋根の葺き替え、道普請,山普請

 この形態を今日に継承しているのが、部落会町内会。

 まちが大きくなり、人々の多くがサラリーマンになっている現代社会ではこの古典的な形態を維持することはむずかしいので、人々に代わってまちづくりの方針を審議し最終決定しその執行過程を指揮監督する市長と市議会議員を人々の代表者として選挙するとともに、人々に代わって行政サービスの提供業務を担う職員を人々の使用人として雇用している。

 そして人々はこれらの代表者と職員の報酬・給与などに必要な経費を応分に分担するために、地方税や使用料などを支払うことにしている。

 このまちづくりの仕事を人々の代表者と職員で構成されている「お役所」に白紙委任してしまうことになれば、人々は4年に一度、代表者を選挙するときだけ自治の主人公と奉られるものの、それ以外の日常は「お役所」の意のままに従わされる奴隷のような存在に成り下がってしまう。

(講演中にこの「奴隷」いう言葉はルソーの言葉であるとの説明があった)

 現代の地方自治をほんとうの意味で住民自拾(地域民主主義、自治体デモクラシー)に基づくものにするためには、まちづくりの仕事を「お役所」任せにせず、主人公である人々が日常みずから深くこれに参加し続ける必要がある。

 自治基本条例の制定運動は、この住民自治(地域民主主義、自治体デモクラシー)をいま以上に内実の濃いものにするために、住民参加の機会と手段をより豊かにしようとするものである。

 そして、住民参加を広げ深めるには、「お役所」が保有している情報の徹底的な公開を求め、「お役所」と人々が共通の情報に基づいて意見を交換する情報共有の状態に近づけることが肝心である。

 それには、市民も変わらなければなりませんが、市長、市議会も、市の職員機構も、変わらなければなりません。どのように変わらなければならないのか。これを定めるのが自治基本条例です。

 首長選挙をローカル・マニフェスト選挙に変えようという運動も、こうした流れの一環です。「お任せ民主主義」からの脱却。

II 「まちの個性」を磨き上げるために

 まちには、自然と町並みの景観、特産品と郷土料理、方言と郷土芸能、人情風俗など、それぞれの地勢と歴史と文化に根差した個性がある。

 三鷹の市政にも、下水道完備の早期達成、コミュニティ・センターと住区協議会の設置、市長と市民のパートナーシップ協定に基づく基本計画の策定など、全国の注目を集めてきた種々の独自施策があって、それらが三鷹市政の独自の個性を形成してきた。

(講演の中で、この住区とは町内会より広域な範囲とのこと)

 この甲府の市政にも。富士山と八ヶ岳。信玄公以来の「府内」のまちづくりの歴史、ほうとうとあわびの煮貝、水晶細工、甲州ぶどうを初めとするフルーツ、そして山梨県ボランティアセンター等々。

(講演の中で山梨県のボランティアセンター創設当時に視察に来た事があると)

 そして、まちに暮らす人々の郷土愛を支えている根源はこうした「まちの個性」である。

 自治基本条例の制定運動は、こうした「まちの個性」を再確認するとともに、これらをさらに一層磨き上げ、新しい「まちの個性」を積極的に創造しようとしている運動である。

 住民参加の拡充、情報公開の徹底などは、どこの市町村でも共通に遵守されるべき住民自治の普遍的な理念であり原理原則であるから、これだけを謳い上げた自治基本条例であれば、どこの市町村、どこの都道府県のものであれ、大同小異のものになるはずである。

 しかしながら、自治基本条例の制定を目指している自治体はいずれも、「まちの個性」と「まちの課題」に対応した個性的な自治基本条例を制定しようとしている。

 まちづくり基本条例、自治基本条例、住民参加基本条例の関係。

 甲府市の自治基本条例は、その8割方の条項が他の市町村のそれとほぼ類似のものになったとしても不思議ではないが、少なくとも残りの2割方の条項には、いかにも甲府らしいと認められるようなものが盛り込まれていることが望ましい。

III 分権改革の更なる展開を促すために

 このように、自治基本条例の制定運動は、従来の中央集権体制の下での全国一律の画一的な地方自治制度の呪縛から脱却しようとしている運動である。

 またそれは、自治体が先導的な施策を国に先行して碓立しようとする運動である。過去においても、情報公開制度の確立、個人情報保護制度の確立、環境アセスメント制度の確立など、先進的な自治体が先導した結果、国もようやくその重い腰を上げて国法を制定するに至った事例は少なくないが、自治基本条例の制定はこうした動向に一層拍車をかけるよすがとなる。

 なぜならば、自治基本条例の条項には、これまでに積み上げてきた市政運営の実績を原理原則にまで昇華して再確認するような性質の条項が少なくないが、同時に新たな施策化を要請している条項、いいかえれば、自治基本条例の制定に続いてこれを具体化する新しい条例の制定を議会に要請している性質の条項も含まれているので、ここから新しい先導的な施策が次々に誕生するはずだからである。

 自治基本条例の制定運動の意義は、以上に述べたことに止まらない。これ以上の意義をもつ可能性を秘めている。

 自治基本条例の条項のなかには、地方自治法などの国法による画一的な制度規制の緩和・廃止を迫る性質のものまで含まれている。

 これまでの分権改革では団体自治の側面での拡充方策が優先され、住民自治の側面での拡充方策は先送りにされてきているが、最近の自治基本条例の制定運動の広がりや「構造改革特区」の申請状況をみていると、自治体による攻撃の矛先がいよいよ地方自治制度の本丸にまで向けられてきている。

 収入役・助役の必置規制の緩和、教育委員会・農業委員会の必置規制の緩和等々、地方議会の招集権や首長による専決処分の当否。

(講演中にここで年度末に税条例の専決がやむを得ない問題が説明された)

 さらには、市議会の議員定数の上限制限、一議員一常任委員会制、会期制等々。

 自治基本条例づくりを進めていくと、どうしてこういうことになっているのか、どうしてこういうふうに変えられないのかといづた疑問が噴出してくる。そこから、自治権の更なる拡充を求める草の根運動が始まる。

 こうして、自治基本条例の制定運動は、第3次分権改革を起動させる大きなうねりの一つになるものと思われる。

IV 市議会をどうするか

 自治基本条例を制定するには、市議会がこれを議決することが絶対不可欠の要件である。市民の力だけではできない。市長にいかに意欲があっても、市議会の多数の賛同を得なければ、できない。

 そこで、市議会を除外した自治基本条例も生まれている。行政参加条例。

 しかし、市議会に変わってほしい、市議会を変えたいというのが重要な項目であることが多い。市議会の委員会審議の公開。議事録の作成と公開。市民に開かれた市議会運営。議会は住民参加嫌い。議員報酬、実費弁債、議員年金、政務調査費は。一括質問と一括答弁。

(講演中に「議事録の作成と公開」とは委員会の議事録のことらしいと判明)

 その種の条項を増やせば増やすほど、市議会がこれに抵抗する。このことを正しく認識し、市議会議員の圧倒的多数の全面的な理解と共感を得られるように、知恵と工夫を結集した良識豊かな案をまとめてほしい、

 この「まちの憲法」をまちに暮らす人々みずからが制定した自主憲法にするために、一人でも多くの市民がその制定過程に積極的に参加してほしい。

 甲府市の市民と市政がこれまでに営々と積み上げてきた自治の実績を着実に踏まえながら、その上でこのまちの自治の理想像を高らかに謳い上げ、更なる前進を促す指針を示してほしい。

このページは甲府市自治基本条例をつくる会による平成17(2005)年7月9日のフォーラムで配布されたレジュメ(梗概)に基づいて作成したものです。
講演の全文は甲府市ホームページに「自治基本条例を考えるフォーラム 第一部 基調講演」として残されています。西尾さんからレジュメ転載の許可を得たものではありませんので、ここでは私が拝聴した時にメモした事などを追記しながら引用してご紹介するという形になっています。