看護師を大阪に派遣した山梨大学医学部

「大阪化」どう防ぐ 変異株検査「さらに」

2021.05.19 「大阪化」どう防ぐ 変異株検査「さらに」(朝日新聞 永沼仁 2021年5月19日 11時00分)
 山梨大医学部(中央市)で(2021年5月)14日、新型コロナウイルスの医療体制について話し合う緊急シンポジウムが開かれた。大阪府に派遣された看護師が、深刻な人手不足に陥っている現状を報告。変異株の流行をつかむため、同大学を活用した検査拡充の提案もあった。

 大阪の状況を報告したのは、集中治療室(ICU)看護師の田中大登さんと山本雅弘さん。

 田中さんは今月1~7日、関西医大総合医療センターに派遣された。重症者の受け入れ要請が相次ぎ、病床確保のため体外式膜型人工肺(ECMO〈エクモ〉)は使っていなかったと説明した。1人で3~4人の患者をケアし、「業務に追われ、患者さんを個別にみる余裕がなかった」と振り返った。

 大阪コロナ重症センターに先月派遣された山本さんも、休憩が十分にとれなかったと報告。患者が適切な治療・看護を受けられなくなっており、10日間で6人が亡くなった。「マンパワーが足りず、家族への連絡が滞ることもあった」と語った。
 報告を受け付属病院の医師たちも危機感をあらわにした。

 重症患者をみている森口武史・救急部長は「大学病院、救命センターでありながらエクモをあきらめざるを得ないのは衝撃的。医療崩壊している」。

 県感染症対策センター(県CDC)のメンバーでもある井上修・感染制御部副部長は、人口などをもとに大阪の現状を山梨にあてはめると、1週間の感染者が約600人となるとのシミュレーションを示した。うち2割が肺炎となり、人工呼吸器やエクモを使う患者が約30人出るという。

 感染拡大を食い止めるためには、ワクチン接種の推進、医療・検査体制の拡充が重要だと述べ、現在の変異株への対応は「不十分」だと指摘。「どれくらい流行しているのかをイメージしながら先手を打つ必要がある。独自に遺伝子を解析して、効果的な対策を立てることが大事だ」と語った。現在、国の機関に検体を送って分析しているが、学内に設ける「感染ゲノム解析センター」の活用を提案した。

 山梨大では現在、4人目の看護師を大阪府に派遣しており、来週からは2人ずつを派遣する。
島田真路学長はシンポの終了後、「山梨も気を緩めると、感染が広がる可能性があり油断できない。変異株の分析は大学でもできるので依頼してほしい。インド株など分析の範囲をもっと広げ、実態をつかんでいくべきだ」と語った。(永沼仁)

山梨大学医学部 | 山梨大学医学部附属病院


体外式膜型人工肺_ Wikipedia
 Extracorporeal membrane oxygenation, ECMO エクモ は、重症呼吸不全患者または重症心不全患者に対して(時に心肺停止状態の蘇生手段として)行われる生命維持法である。
心臓と肺が、生命を維持するのに十分な機能を失った際に、心臓と呼吸の補助をする治療法である。
ECMOは患者の体内から血液を抜き出し(脱血)、人工肺にて二酸化炭素を拡散により除去するとともに、赤血球に酸素を付加(酸素化)し、再び体内に戻すこと(送血)を行う。これにより、肺が本来行うべき酸素化と二酸化炭素除去を代替し、肺を全く使用しなくてもよい状況(Lung Rest)を作り出す。
【以下引用は略しますが、 新型コロナウイルス(COVID-19)患者での使用 と題された部分もあります。】


ゲノム解析とは(独立行政法人 製品評価技術基盤機構のホームページです。バイオテクノロジー分野のゲノム解析とは?の情報を掲載しています。)
 ゲノムとは?  「ゲノム(genome)」とは "gene(遺伝子)" と集合をあらわす "-ome" を組み合わせた言葉で、生物のもつ遺伝子(遺伝情報)の全体を指す言葉です。その実体は生物の細胞内にあるDNA分子であり、遺伝子や遺伝子の発現を制御する情報などが含まれています。


2020.05.12 肺炎治療の切り札「ECMO」って? 使用のリスクも(朝日新聞 三上元 2020年5月12日 11時28分)
 新型コロナウイルスで肺炎になった重症患者を治療するうえで最後のとりでになるのが、体外式膜型人工肺(ECMO(エクモ))だ。日本には約1400台あり、世界的にも断トツに多い。ただし、扱える医師が少なく重症患者がさらに増えた場合には十分に活用できないおそれがある。関連学会などは緊急の講習会を開くなどして対応を進めている。 【以下引用略します】

新型コロナウイルスに感染すると、ウイルスはのどの奥で増え、せきや発熱といった症状が出る。さらに症状が進むと、ウイルスは肺の中で増えて肺炎を起こすことがある。ウイルスの増殖に伴って肺胞の機能が落ち、血液に酸素を取り込み二酸化炭素を排出する機能が落ちる。  その場合、患者の免疫がウイルスに勝てるよう容体を安定させながら回復を待つ。肺の機能が低下して血液中の酸素濃度が下がると生命を維持が難しくなる。このため人工呼吸器を使って、高濃度の酸素を送る。ただ、活性酸素が多く発生するため肺に障害が起きるおそれがあり、そうなると、いくら酸素を送っても生命を維持できなくなる。  ECMOを使うと、肺を休ませながら血液中に酸素を送ることができる。体から取り出した血液から二酸化炭素を除去、酸素を加えて体内に戻し、肺の機能を代替する。1970年代に開発され、機器や使用法の研究が進んだ。 ECMOのリスクとは…  ECMOは手術中の心肺機能の代替や心肺停止した人の蘇生を目的に使われることが多い。その場合の使用期間は最大2、3日程度だ。一方、肺炎の治療では装着期間が1、2週間から1カ月程度と長くなる。ECMOを使うと血栓ができやすくなるため、血液が凝固するのを防ぐ薬を使う。長期間使うことにより、脳出血や消化管出血を起こすリスクが高まる。  かわぐち心臓呼吸器病院(埼玉県川口市)の竹田晋浩(しんひろ)院長は「出血は命に直結する。上手な管理が必要だ」と話す。2009年に新型インフルエンザが流行した時も重い肺炎患者にECMOが使われた。だが、欧米に比べて日本の救命率が低かった。欧米ではECMOを使用する病院を決めて機材や患者を集中させており、医師の熟練度が高かったからだという。  日本にあるECMO約1400台は先進国でも「断然多い数」(竹田さん)だが、数台ずつ各病院に分散しているため使う機会が少なく管理の熟練度が上がりにくいという。  竹田さんらはECMOの管理技術向上のためのチームを作り、09年以降全国で講習会を開くなど技術を広めてきた。16年に季節性インフルエンザが世界的に大流行した際は09年より高い救命率を達成できたという。  チームは新型コロナウイルスの感染拡大をにらみ、2月に医療機関向けの24時間相談窓口を設置。さらに関西、東北、北陸など地域ごとの拠点病院で医師らを対象にした緊急の講習会を開いている。ECMOを使った経験のある医師が対象で、患者に使う際はテレビ会議などで助言する。また、ビデオをつくって医療機関に配布することも考えているという。  新型コロナウイルスへの感染を防ぎながらECMOを使うには陰圧の集中治療室を使い防護服を着るなど、医療者の負担が大きい。実際にECMOを使って治療にあたった、杏林大の皿谷健准教授は「他の治療を含めて1人の患者に約30人のスタッフを集めた。負担は大きかった」という。竹田さんも「技術に優れてECMOを5台備えた病院でも同時に対応できる患者さんは2、3人が限界ではないか」と話す。  ECMOはあくまで患者の回復を待つ時間を作る手段だ。日本集中治療医学会などの調査では、5月10日までに新型コロナウイルスの患者155人にECMOが使われた。87人が装置を外せるまで回復、40人は現在も装着中だ。一方、装着したものの亡くなった人が28人いたという。  全ての重症化した新型コロナウイルス感染患者にECMOを使えるわけではない。普通の肺炎でも高齢だったり重い持病があったりするとECMOをつけても回復が難しい場合がある。このため、装着しない判断もありうるという。  竹田さんは「新型コロナウイルスの肺炎に対してどこまで有効か正直わからない部分もある。ただ救命率を上げるにはECMOを含めた患者の集中管理をいかに上手にできるかが重要だ」と話す。(三上元)