甲府市の自治基本条例

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甲府市自治基本条例の推進に関する提言書

平成23(2011)年3月25日

平成19(2007)年6月21日の施行された甲府市自治基本条例が、平成22(2010)年度は施行後4年以内に見直しと定められた時期にあたるため、「甲府市自治基本条例推進研究会」が設置されて検討が行なわれました。
平成23(2011)年3月25日、甲府市自治基本条例の推進に関する提言書(PDFファイル 61KB)が研究会から市長へ提出されました。

◆提言にあたって

甲府市自治基本条例推進研究会会長 熊谷隆一

 平成19年6月に制定された「甲府市自治基本条例」のいわゆる「見直し」のために発足した当「甲府市自治基本条例推進研究会」が開催された期間は、奇しくも地方自治に対する市民的な関心が非常に高まった時期と符合した。

 すなわち、鹿児島県阿久根市や名古屋市における一連の議会解散請求や首長解任請求に関する動きが全国的に注目された時期であった。そして、それらの動きは、首長と議会とのあり方を、そして市民と行政との関係を改めて私たちに間い直すものとなった。さまざまな紆余曲折はあったものの、その結果は、地方自治の主体が住民自身であること、そしてそれを自覚して自らが「まちづくり」にたずさわる住民こそが真の意味で「市民」であることを指し示したのではないかと思われる。

 主権者である市民は、自分たちの課題は自分たちで解決するというのが基本である。しかし、個人で解決できない場合には、家族、隣近所、そして市民団体や企業と協力して、地域で解決する。それでも解決できない課題を、もっとも身近な政府すなわち自治体に、権限と財源を信託して、補完(サポート)させる。その際、自治体事務局のトップである首長と議員(議会)はともに選挙によって選出し、議会は立法するとともに首長をチェックする。さらに、市民の信託に応えられない場合には、首長と議員を解職できるという補完性の原理、つまり政府信託論を私たちに再確認させてくれたのである。このような状況下で、甲府市自治基本条例の「見直し」のための研究会に携わることができたのは、まさに時代のニーズであったと言っても過言ではないだろう。

 当研究会では、まず、甲府市自治基本条例の制定後、各条文の意図するところがどこまで進捗したか、現時点での状況を逐条で検証した。そして、条文の趣旨が浸透しておらず、市民自治を推進するために条文を改める必要があると思われる場合には、改正案を出し合うこととした。しかし、その条文を改める必要がなければ、その条文の理念を実現するために、またはさらに条文の趣旨を広く浸透させて市民自治を推進するために、何が必要であるのかを検討し、なるべく具体的な案を提言することとした。委員の皆さんからは、さまざまな意見やアイディア、そしてヒントを出していただいた。それらを取りまとめて本提言書を作成したつもりであるが、もし委員の皆さんの意を充分に汲み切れていないとすれば、ひとえに会長の不徳の致すところである。

 最後に、ご多忙の中、時間を割いてお集まりいただき、真剣に議論くださった委員の皆さんに感謝と敬意を表したい。また、本提言直前に発生した東北関東大震災で亡くなられた方々に対して追悼の意を表するとともに、被災者の皆さんへの連帯を甲府市民および甲府市に呼びかけたい。

1 はじめに

 平成12年4月、地方分権一括法が施行され、地方はこれまでの全国一律のルールに基づく自治体運営から「地域のことは地域で決める」という考えのもと、地方が主役となる地域経営が求められるようになった。
 このような中、甲府市では自らの行政運営にあたっての基本的なルールを確立するため、平成17年から2年余りにわたる議論を積み重ねる中で、市民・市議会・行政が協働し、平成19年6月に「甲府市自治基本条例」(以下、「自治基本条例」という。)を制定した。
 市民の参画と協働を基調とした自治基本条例は、社会状況等の変化に対応し、条例制定の趣旨に沿った内容を維持しているかについて、施行後4年以内に見直しを検討することとしている。
 平成19年6月21日施行の本条例は平成22年度がその時期にあたるため、平成22年8月3日に甲府市自治基本条例推進研究会(以下、「推進研究会」という。)を設置し、自治基本条例の検証を行った。

2 自治基本条例に関する意見・提言

(1)検証の方法
 検証にあたり、推進研究会に条例全体について検証する「条例推進第一専門部会」と、第4章(市議会と市議会の議員の役割と責務)を専門的に検証する「条例推進第二専門部会」を設置した。
 推進研究会では自治基本条例制定時に作成した「条文と解説」を基本資料として、「自治基本条例に関連する取り組みについて(資料1) 」、「行政と市民との協働事例(資料2)」、「甲府市議会改革のまとめ(資料3)」等に基づき、自治基本条例について逐条 審議を行った。

(2)章ごとの意見・提言
 自治基本条例・前文から7章35条の条文、および附則について、これまでの取り組みや協働事業を確認するなかで現状分析、検討を行なった。検討に際して出された意見・提言、改善案を以下に記すこととする。

■ 前文
 前文については、この条例の制定の趣旨、目的、基本原則などをまとめて述べたものになっているため、今回の検証では見直すべきところはなかった。
 しかし、「輝かしい歴史」と条文にあるように、わたしたち自身が甲府の歴史を語り継いでいくことが必要である。平成31年に迎える開府500年という節目に向けて、市民一人ひとりが、甲府の輝かしい歴史を見つめ直し、甲府についての認識を深め、甲府らしいまちづくりに積極的に取り組んでいただきたい。

■ 第1章「総則」
①第2条「最高規範性」
 自治基本条例とその最高規範性について、市民に周知されていない。
 市民の中には自治基本条例の存在を知らない、知っていてもその内容についてよく分からない人が多いため、市ホームぺージを活用した周知など、自治基本条例とその内容について広く知ってもらうための方策を検討していただきたい。
 また、市全体の条例について自治基本条例との関係を整理し体系化することは、最高規範性の周知にもつながるとの意見もあった。今後、自治基本条例を活用して、甲府らしい自治を進めていくためには、条例の体系化や分野別の個別条例制定についても検討が必要になってくると考えられる。

◆自治基本条例の周知方法
 ・市ホームぺージのトップ画面から簡単に自治基本条例のぺージへアクセス。
 ・「甲府暮らしの便利帖」ヘ自治基本条例の掲載。

■ 第2章「基本原則」
①第5条「情報共有の原則」
 行政による情報発信や情報公開も、市民がその情報を認識、理解しなければ情報の共有化が進んでいるとは言えない。
 情報を見ない、知らない人に対する情報発信、また、情報を市民に理解してもらうための方策を検討していただきたい。なお、情報の提供にあたっては、情報通信ネットワークを活用するとともに、回覧板や手話による通訳など人と人とのつながりも大切にしていただきたい、さらに、市民の側からも情報を共有しようとする意識を持つことが必要と考える。

◆情報共有の手法
 ・「広報こうふ」や市ホームべージの活用。
 ・見る人、知る人を意識した情報提供。

■ 第3章「市民の権利と責務」
 本章は、市民の権利と責務や子どもの権利、コミュニティ団体と事業者の役割と責任など基本的な部分を謳っており、これらに関係する事例について検証を行った。
現在行なわれている協働事業の多くは、自治基本条例制定前から取り組まれていることから、今後、新たな活動を積極的に取り入れながら、市民の参画と協働を進めていただきたい。
 また、現在も実施されている市民と行政との協働事業を例示して、市民参画が市民にとって身近なものであることを実感してもらうことも必要である。自治基本条例の理念に基づいて市民の参画と協働を進めるために、従来以上にさまざまな工夫や方法を施して、市民に対して情報発信を行っていただきたい。

◆市政に参画する権利
 ・自治基本条例の基本原則である参画と協働を推進。
 ・市民参画を身近に感じてもらうため、市民と行政との協働事業の例示。

■ 第4章「市議会と市議会の議員の役割と責務」
①第13条「市議会の役割と責務」
 第2項において使われている「福祉の増進」という表現は、専門的で言葉の意味がわかり難いと感じた。自治基本条例において用いられる「福祉」とは、地方自治法の本旨である住民福祉の向上のことであり、市民生活の向上を意味している。
この「福祉」という言葉を含め、言葉の意味を容易に解釈することが難しい表現については、「条文と解説」において詳細な注釈の追加が必要である。

◆詳細な説明(注釈)が必要となる用語(条文と解説の中から)
 「福祉の増進」(前文・第13条など)
 「市長その他の執行機関」(第3条など)
 「品位と名誉」(第16条)
 「円滑な議事運営」(第17条)
 「自主的な法令解釈」(第23条)
 「パブリックコメント」(第32条)
 など。

②第14条「市議会の情報の公開と説明責任」
 市議会の情報の公開を推進するために、「議会だより」や市議会ホームぺージの内容の充実を図っていただきたい。また、本会議のインターネット中継や動画配信など、情報通信ネットワークの活用についても検討が必要である。
 説明責任については、市民に議会内容をわかりやすく報告するための「議会報告会」の開催について検討していただきたい。

◆市議会の情報の公開
 ・「議会だより」や市議会ホームページの充実。
 ・市議会ホームぺージに「常任委員会会議録」の公開。
 ・本会議のインターネット中継、動画配信の導入。

③第15条「市議会への市民参加と市議会の活性化」
 「市民との直接対話の場を設ける」と条文にあるように、市民と対話する機会が必要である。議会が積極的に出かけて行き市民と語り合う「出前議会」や市民と議員による自由な討議が行なえる学習会などの開催を検討していただきたい。

◆市議会の活性化
 ・「出前議会」の開催。

■ 第5章「市長その他の執行機関の費務」
 この章については見直すべきところは特段なかったものの、第21条「市の職員の責務」では、市民には市長などの公職者を解職 (リコール) できる権利があることを明記したらどうかという意見があった。
 しかし、この意見については、条例第7章第34条(直接請求、 住民監査請求等)に同様の内容が含まれているという認識となった。

■ 第6章「市政運営」
①第24条「財政運営」
 第2項において「市は、財政状況を市民にわかりやすく公表します」とあるが、「広報こうふ」に掲載されている市の財政状況に関する説明は、市民にはまだまだ分かりづらい。
 財政状況の説明については、毎年のように見直しを行い、市民にわかりやすい内容となるように努めているようだが、今後もよりわかりやすく公表するために、さらなる努力をしていただきたい。また、内容についても、詳細なものから簡単でわかりやすい表現のものまで多様なニーズに対応することも重要と考える。

◆財政状況の公表
 ・わかりやすく公表することを継続。
 ・多様なニーズに対応した公表。

②第29条「国際交流の推進」
 国際交流や多文化共生ヘの推進についても自治基本条例のなかで掲げていることから、外国人市民にも理解してもらえるように、自治基本条例を外国語に翻訳する必要があるという意見があった。
 現実的には条例全文を細かく翻訳することは難しいので、外国人市民にも理解しやすくするためにルビやイラストを追加したチラシ等を作成していただきたい。また、将来的には多言語に翻訳した自治基本条例の概要版の作成についても検討していただきたい。

◆国際社会への対応
 ・ルビやイラストを追加したチラシ等の作成。
 ・外国人市民への自治基本条例の周知。

■ 第7章「参画と協働の推進」
①第32条「市民の意見提出」
 市民の意見提出 (パブリックコメント) については、市民から提出される意見が極めて少ない状況にある。
 この課題に対しては、「広報こうふ」に意見提出用のハガキや用紙を付け、広く市民から意見を募集したらどうかという提案があったので、検討していただきたい。

◆市民の意見提出
 ・「広報こうふ」 ヘの意見提出用のハガキや用紙の添付。

②第33条「審議会等の委員の公募」
 審議会等への委員の公募については、応募者が少ない状況にある。これは、委員の募集方法や論文を提出しなければならない委員選考基準に課題があると考える。また、委員の年齢、性別などの構成に配慮し、若者、女性委員の比率を高めることも重要である。
 これらの課題に対しては、委員選考基準の緩和や若者、女性委員が参加しやすい応募要件に変更するなど、市民が応募しやすい方法を検討していただきたい。

◆委員の公募
 ・市民が応募しやすい公募方法および委員選考基準の検討。

■ 附則
 附則については、検証後の自治基本条例の見直しについて議論を行なった。
 今後の条例見直しについては、いつまでにするというような期間を決める必要はないが、検証が必要であるということを明確にしておくべきであるという意見のほかに、自治体の最高法規と言われる自治基本条例を簡単に見直しができるように規定してもよいのかという意見も出された。

 また、推進研究会において条例の見直しを行ったことがわかるように、何らかの形で経過を残したいという意見もあった。

 これらの意見を踏まえ、推進研究会の検証結果として、自治基本条例の見直しについては今後も必要に応じて検討していくことを「条文と解説」の附則解説に追加していただきたい。また、自治基本条例の検証を推進研究会が行ったことについても、記録として残すために「条文と解説」の附則解説に追加していただきたい。

◆「条文と解説」附則解説の追加
 ・推進研究会の検証結果として、今後も必要に応じて条例の見直しを検討し、必要と認めたときは改正などの措置を講じることの追加。
 ・平成22年度に推進研究会が条例の検証を行ったことの追加。

3 まとめ

 今回、市民、議員、行政が協働して、甲府市における自治基本条例に関するこれまでの取り組みを中心に検証を行った。
 その結果、条例の条文については、本市の自治を推進していく上で、自治の理念が適切に表現されているということで、特に修正、変更は必要ないという結論になった。
 しかし、未だ市民に広くこの条例が浸透しているとはいえない状況にあり、また、条例の施行に伴い、市民の参画が進んでいるとも言い難い。
 甲府市のまちづくりを進める上での基本的なルールであるこの条例を一人でも多くの市民に理解してもらい、市民一人ひとりが考え、行動し、共に住みよいまちを創っていくという協働の意識を高め、市民による主体的なまちづくりを進めていく必要がある。

4 附属資料

 資料1 甲府市自治基本条例に関連する取り組みについて

 資料2 行政と市民との協働事例について

 資料3 甲府市自治基本条例第4章検証資料

 資料4 甲府市自治基本条例・検証資料(条文と解説)

 資料5 甲府市自治基本条例推進研究会
   (1)甲府市自治基本条例推進研究会設置要綱
   (2)甲府市自治基本条例推進研究会委員名簿
   (3)甲府市自治基本条例推進研究会開催状況